物差しの尺度

  ある時、新人女子社員に外交をお願いした。
私が勤務時代のラボの後輩が、歯科医院より受けとった模型を電車の網棚に載せたまま下車して、困ったことがあった。その経験上、私はその子に網棚に置いても忘れないでねと話した。
すると、「社長!!私は網棚に手が届きません」と語気強く返答され一瞬言葉を失ったが、その子の身長で網棚に届かないとは考えもしなかった。物理的に手が届かないことと、身長コンプレックスがリンクして火を付けてしまったことに嫌でも気づかされ、長身の私が知らない世界を強制的に教えられた気がした。しばらくしてその女子社員は辞めたが、この一件が大きなウエートを占めていた。

  物差しの尺度はそれぞれ違うが、患者さんの歯の無い苦痛とか、ましてや総義歯とでもなれば製作者の想定外の不具合があるに違いない。
歯科医師の脂の乗った40代50代では当人達が総義歯というのはあまりいないし、歯科技工士自身も高齢でなければ、パーシャル含めて自らがデンチャー体験者も少ない。
これは未知への遭遇である。とかく人間は自分の物差しでしか計らないが、こと歯科医療は患者さんの立場を思いやることが大切である。

  とある産婦人科病院で受診したら、担当医いわく「子どもを産まないとこうゆう病気になるんだよね」と、長年独身のその女性は「産まない」ことが女性として「一人前」でない言い方に腹立たしさを覚えたとある。 即病院を変えたそうだが、担当医のきつい一発で「心」をも病気にする医者も変だが、それぞれ私達に思い当たることはないだろうか。