「悔しい体力低下」川島 哲

昨年末に亀田がランダエダと格闘する中継を見たい気持ちを抑え、愛犬トーマスと行った散歩中に事件は起きた。
午後8時25分頃、国民の多くはボクシングの世界戦にくぎ付け。能天気に道路の真ん中を闊歩していたのは私ぐらいだ。 突然「ドロボー!!」と悲鳴に近い女性の大声。振り返ると大柄な男がママチャリで、こちらに全速で向かって来るではありませんか! その距離5メートル、一瞬まわりを見渡したが他には誰もいない。こいつが犯人との確証がつかないまま、とりあえず蹴りをくらわせた。 しかし無残にもそれは軽く男の胸をかすめただけで、多少よろけたが逃げられた。

警視総監賞が一瞬頭をよぎったがそうは問屋が卸さなかった。その晩は夢うつつ、ママチャリを倒すいろいろな格闘技が頭をよぎり眠れなかった。 それ程犯人を取り逃がしたことが悔しかったのだろう。
左手にリードを持っていたことは言い訳にしたくはないが体力低下は認めざるを得ない。小学校の運動会ではは負け知らず、あの「鬼の4機(機動隊)」にも負けぬ自信があった。 しかし、すぐに追いかけない自分を発見し寂しかった。
2日後、ハンドバッグをひったくられたご婦人がLaboにお礼に来られた。警察での事情聴取の最中に奪われたハンドバッグは拾得物として出てきたそうで、 現金6万円は取られたものの、運転免許証や保険証等は無事だったとのこと。 女性が警察で、犯人に蹴りを人れた方がいたと話したら、「奥さん、今時そんな奇特な市民にはめったに出会えませんよ」と言われたそうだ。 その言葉は傷ついた自分には多少なりとも救いだったが、やはり長年の入れ歯作りは足をも弱める。

その後は散歩中に時々走るように心がけているし、新年からは毎日2時間は歩く。事件を待つわけではないが、そこそこ走れることが楽しいと思える自分を見つけられたことも嬉しかった。
相棒のトーマスの方は迷惑顔に見える。8歳ともなれば十分中年の犬、「なぜ今更なの父ちゃん」というが聞こえてきそうだ。