「チャボの恩返し!!」 川島 哲

愛犬トーマスは散歩中、家族全員留守の中、事件は起きた。
 散歩から戻るとなんと玄関ドアの鍵2ケ所が壊されいる。
 物取りの予感・・・。
 恐る恐る家に入るが、人の気配はない。
 部屋は荒らされてもいない。
 110番通報をして侍つこと15分、警察が来て検証した結果次のことが分かった。
 通常犯人は逃げることを考えて土足で家に入るが、その形跡が全くない。
 どうやら玄関ドアを乱暴にもバールでこじ開けて鍵を壊し侵入を試みたまでは よかったが何らかの事情でその場をすぐに立ち去る羽目になったらしい。
「何らかの事情・・・・」、それで思い当たるのはチャボのてる君こと、輝正だけだ。
 歯科技工は目が疲れるのでLABO前に小さな花壇を作り、ガーデニングをしている。
 てる君は13年前にその前庭に捨てられていたのを私が飼い始めてからの付き合いだ。
 来た時は生後数ケ月、しばらくして赤いとさかが出てきたので捨てられた理由がおのずと分かった。
 オンドリ(雄鶏)だったのだ。
 堂々たるてる君は、卵は産まないが、風呂には入る。
 いつしか我が家の一員となった。
 オンドリは雄叫びが凄くて近所迷惑にもなる。
 しかし、人か来ると大声で知らせるなど、時には犬よりも利ロに見える。
 事件が起きた頃は要介護状態で体調が一進一退、止まり木にもとまれない状態で餌も 高栄養の虫を私が口に入れて何とか食べさせ、水はスポイトで飲ませていた。
 夕方になると玄関横に毛布を掛けて鎮座していた。
 そんなてる君は、きっとバールでドアをこじ開けた犯人に全身全霊をかけて声を 振り絞り、不法侵入を阻止したに違いない。
犯人にすれば農家でもない家でチャボの猛烈な雄叫びにあえば、さぞかし驚いたことで あろうし、姿も毛布で隠されて見えないので、余計に不気味に感じたかもしれない。
 チャボの寿命は分からない。
 なぜなら、老化以前に食べられてしまう運命だからだ。
 拾われ、育てられたことへの恩義と、人間に食べられる恐怖もない平穏な生活に対し、 彼はいつかお返しをしたかったのかもしれない。
 その事件後しばらくして、日差しの穏やかな屋上で13歳の生涯にピリオドが打たれたが、 それは男らしい川島輝正の大往生であった。