歯科界から消えてゆくGOLD文化  川島 哲

いつのまにか歯科鋳造からゴールドが消えかかっている。とりわけ機械的センサーと生体ネットワークを駆使したキャストデンチャーではCo・Cr床がメジャーとなりゴールド床は細々と生きている。金合金が本来持つソフトランディングな機械的性質や食事の味を良くするパフォーマンスを、歯科医師も歯科技工士も本当を”知らずして”見限る風潮は解せない。歯科界はゴールドを捨て始めてから斜陽化し始めたことに気が付いているのだろうか。キャストデンチャーにバリューを持たせてこそ、患者さんはそのデンチャーを大切に扱う。実際メガネでさえTiフレームは数年でアウトだが18Kの方は長持ちする、私のものは26年後の今日、現役であり続けている。
 ゴールドと歯科と言えば開面金冠(額縁)を思い出すが、総じてゴールドは日本人にとって受けいれやすい金属であった。江戸時代であれば小判、平安京であれば金の副葬品、平城京であれば大仏様に金箔と事欠かない。つげの入れ歯(木床義歯)は臼歯部に金の金具を打ち込んでいたし、歯科に於いても以前からなじみやすい。
 加賀百万石(金沢市)での老舗の料理屋では、箸を”ぱん”と開くと金箔がぱらぱらと会席料理に降りかかる。金箔入り大吟醸となれば金三昧、金沢市民の普段の生活でも金箔入りの油取り紙で、お化粧は金箔入りローション。イチゴケーキの生クリームは金箔の色付けでの豪華に3時のおやつ、遠足には金箔入りのキャンディー。この”豪ジャスライフ”は当然ながら歯科補綴で銀色は厳禁、ましてやキャストデンチャーにCo・Crを用いたら、先生なんで金色していないのと患者さんから即クレーム。
 歯科は補綴分野でゴールドから離脱し非貴金属へとミスリードされた。それとリンクして斜陽化の道を歩むこととなる。とりわけ、キャストパーシャルでのゴールドの有効性はいまさら述べることもはばかるが、いまだにバイオ(金)キャストパーシャルの有効性が贅択とされて国民の中でメジャーになりきれないでいる。補綴装置とは生命維持装置であり、元来口腔内はコストを掛ける運命にある。弾力があることで粘膜は痛くなく良く噛めて味覚をも改善するパフォーマンスを是非とも患者さん達にプレゼンテーションして欲しい。しかしながら現状では歯科技工士は黒子で、前面に登場できない”歯がゆさ”が生じている。今こそ歯科界のリーダー達はこれらの熱い思いを含めて、世界で冠たる日本的ゴールド文化を是非とも歯科補綴でも開花させて欲しいと切に願う。

 注)文中で金合金を「金」と言ったり「ゴールド」と書いたりでは文章上は整合性に欠けるが、
   文章の流れで使い分けている。

月刊 歯科ペンクラブ 2007年7月号 掲載