『中国・対日イメージ改善には…内陸低収入層にアピール』

論壇思潮 田中 明彦

昨日のこの欄で、米メリーランド大などが行った世論調査を紹介して、日本が世界の数多くの国で好感を持たれているということを紹介した。 また、その中で例外的に、中国と韓国において、日本に対する評価が著しく低いことも紹介し、今後の日本外交の課題が、 この重要な隣国における日本イメージの改善であることも指摘した。一体どうしたらよいのだろうか。

実は、アジア諸国に関して、この調査よりさらに包括的な意識調査が、猪口孝教授〔中央大学〕を代表とするアジア・バロメーターと題するプロジェクトによって行われている。 日本に対する好感度がアジアのほとんどの国で高く、中国と韓国で低いことは、アジア・バロメーターによっても確認されている。 現在、筆者は、このデータを使って分析を進めているのだが、この欄ではその中間報告として、中国にしぼって、その対日イメージの分析結果を少し記してみたい。

アジア・バロメーターの中国調査は、昨年2月から3月にかけて中国の8つの都市で行われたものであり、日本をどう評価するかという質問に対して、 良いと評価するもの22%に対して、悪いと評価するもの41%という結果がでており、メリーランド大のものと似た傾向をしめしている。 一体、どういう人たちが、悪い評価を下しているのであろうか。
まず、中国の反日デモに関連して、若い世代の人たちが特に日本を低く評価していると言われることがある。
彼らは1990年代に反日教育をうけたからだ、というのがその理由づけである。しかし、アジア・バロメーターの調査でみるかぎり、若者が特に反日であるようには見えない。 統計的にはそれほど強くはいえないが、かえって年代があがるほど、日本への良い評価は下がり、悪い評価は上がるという傾向がある。20代では24%が良いといっているのに対して50代は18%である。 日本が悪いという人も20代では38%なのに50代では45%である。
より大きな差は、世帯収入の差にみられた。世代収入が5万元〔日本円で約80万円〕以上と5万元未満でわけてみると、高収入の人は日本を良いという人が24%、 悪いという人が32%、低収入の人は、日本を良いという人が22%、悪いという人が44%となる。低所得層の日本に対する悪いイメージが著しく高いということが分かる。

もうひとつの大きな差は、調査を行った都市の差である。日本を悪いと思う人が、内陸の成都では50%、南昌では52%であった。これに対して、沿海の上海では34%、 杭州では28%となっている。良いイメージも、成都は16%だったのに対し、杭州や上海は24%であった。
収入と地域差を掛け合わせててみると、沿海の高収入の人々の間で、最も対日イメージはよく、内陸の低収入の人々の間で対日イメージが悪いということになる。 沿海の高収入の人々は26%が日本を良いといい、30%が日本を悪いという。これに対して、内陸の低収入の人は22%が日本を良いというのに対して、47%が日本を悪いというのである。

あくまでもこれは中間報告であるので、より詳細な検討によって、別の要因が見つかるかもしれない。 しかし、もしこの観察がある程度正しいとすると、今後の日本の対中アプローチの方向性はそれなりに出てくる。つまり、より内陸で低収入の人たちがターゲットであり、 彼らの対日悪感情にどうやって影響をあたえるかということになるのである。たとえば、これまで国際交流基金の事務所は北京と上海にしかなかった。 より内陸それも低所得層にも目に見える活動が必要になるのではないか。
〔東京大学東洋文化研究所長・国際政治〕