大手町博士のゼミナール
金融市場混乱で資金流入

金の価格が世界的に上昇しています。市場が低迷していた2000年ごろと比べ、現在は3倍以上の価格で、11月には約28年ぶりに最高値を更新しました。米国の低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」の焦げ付き問題などをきっかけに、「無国籍の通貨」とも言われる金の存在が改めて注目されているようです。

(下宮崇)

受講生の会社員A夫さん
「どうして金が値上がりしているのですか」
金の市場動向研究機関「ワールド・ゴールド・カウンシル」日韓地域代表の豊島逸夫さん
「サブプライムローン問題の影響で金融市場が混乱し、株式や債券に向かっていた資金が金に流れ込んでいるとみられます。『紙の資産』から『実質資産』への回帰現象と言えます。また、当面、主要国が利上げの方向に動かないとの予測や、米国経済、つまりドルに対する不安感も要因となっています」
大手町博士
「通貨や株式、債券は、発行する国や企業などの信用力が低下したり、急激なインフレ、戦争などにより、価値が目減りしたり、無価値になることもある。一方、金は、その希少価値や、どこの国の通貨とも換えられる点が魅力じゃ。米国経済は減速感が強まり、市場からは米連邦準備制度理事会(FRB)に追加利下げを迫る圧力が強まっている。欧州や日本も金利を上げられる状況になく金利を生まない金にとっては追い風と言える」
■11月8日のニューヨーク商業取引所の金先物価格で、終値が1トロイ・オンス(約31グラム)=837.50ドルとなり、80年1月21日に付けた最高値を約28年ぶりに更新した。田中貴金属工業によると、翌11月9日の国内小売価格は1グラム=3216円だった。80年1月には6495円の最高値を付けているが、当時の為替レートは1ドル=240円前後だったためだ。現在は1ドル=110円前後なので、今の国内小売価格をドルに換算すれば、事実上の過去最高水準と言える。

主婦B子さん
「これまで金の価格はどのように推移していたのですか」
博士
「戦争などの国際的緊張や、70年代の2度にわたる石油危機、国際金融不安などが現れた時期に大きく値上がりしており、『有事の金』『インフレに強い金』という評価をされているんじゃ」
田中貴金属工業貴金属部アセット・セールス・セクション副部長の小出徹郎さん
「79年から80年にかけては、旧ソ連のアフガニスタン侵攻やイランでの学生による米国大使館人質事件、イラン・イラク戦争などが相次ぎました。金の価格は瞬間的に1トロイ・オンス=800ドルを超えましたが、期間は非常に短く、80年1月の平均では675ドルにとどまっています」
三井物産貴金属営業室マーケティングマネージャーの宇津木昌宏さん
「80年代から90年代にかけて、鉱山会社が、将来生産する予定の金を先に売却するという動きが続きました。金の価格が下がると予測していれば、早い時点で売却した方が利益を多く得られるということです。豪州を中心とする多くの鉱山会社が同じように動いたため、結果的に金の価格を押し下げる圧力となっていました」
■鉱山から毎年掘り出される金の生産量は約2500トンだ。これまでに採掘された金の総量は約15万5000トンと、オリンピックの公式プール(50メートル)の約3杯分しかない。一方、推定埋蔵量は約7万6000トンと、プール1杯半分で、現在のペースで堀続ければ、30年程度でなくなる計算で、希少価値は依然として高い。

会社員C郎さん
「金は今後も値上がりするのでしょうか」
小出さん
「金価格の下支え要因としては、03年から取引が始まった金価格に連動する上場投資信託(ETF)に、年金基金など機関投資家が投資していることが挙げられます。これはファンドの資金で実際に金を購入して、10〜20年など長期に保有します。信託資産として買い付けられた金の残高は現在800トン近くに膨らんでいます」
■また、金の約6割は宝飾品として使われているが、インドや中国など金の宝飾品を好む国々の経済が克況で、消費は堅調だ。英貴金属調査会社のGFMS社によると、06年に金を宝飾品として最も消費したのはインドで、521.5トンに達した。次いで米国が308.7トン、中国が244.7トンだった。
 さらに、さびにくく電気をよく通す金は、パソコンや携帯電話に使われる半導体の部品など工業用素材としての需要も高まっている。年間需要は世界全体で300トンと、宝飾用と比べれば7分の1以下だが、10年前の1.5倍に増えている。


豊島さん
「金の市場は株式や債券と比べてかなり小さく、少しの資金が流用するだけで短期的には大幅に乱高下します。仮にサブプライローン問題が沈静化したり、中国のバブルが破たんしたりすれば、金の価格が下がる可能性はあります」
博士
「中長期的には上昇すると予測する専門家は多が、元本保証の商品ではない。国際情勢や市場の動きをよく見ておくことが必要じゃ」

夕刊讀賣新聞 2007年12月11日 掲載