自動車税で森林保全

さいたま支局 伊藤 裕

 埼玉県が全国で初めて、自動車に課税する都道府県税の自動車税の一部を、
環境対策に充てる。

要約
◆埼玉県は今年から、自動車税の一部を環境のために使い、県民の意識向上を図る。
◆予算が自動的に確保されるため、議会・住民の目で無駄遣いの監視が欠かせない。
 自動車税は、車検時にかかる自動車重量税と並んで、保有している自動車に応じてかかる。ただし、重量税が国と地方にまたがっていて道路関連に使途が限定されるのに対し、自動車税は都道府県単独の地方税で、使途に制限はない。埼玉県の場合、課税対象の自動車は約255万台、年間約953億円の税収がある。
 同県は今年度から、この税収のうち、自動車1台当たり500円ずつ、総額14億円を、緑の保全・再生のために新設した「彩の国みどりの基金」に繰り入れることにした。県民には、自動車税の納付通知書に、新しい使途を記した手引書を同封した。
 同県は、この使途を、@水源地や里山などの森林保全A校庭の芝生化など身近な緑の保全B環境教育など意識醸成−−に限定した。あわせて、「みどりと川の再生」を重点政策に揚げて環境施策予算を、前年度より6割増やした。
 地方の環境関連税ではこれまで、個人県民税ではこれまで、個人県民税の均等割(年額1人1000円)に300円から1000円上乗せするなどして森林保全にあてる森林環境税が主流。総務省によると、2007年度までの5年間に23県が導入した。これに対し、自動車税を使うのは埼玉県が初めてになる。
 県の有識者検討委員会も当初、県民税の均等割に上乗せする方式で妥当との報告をまとめていた。だが、上田清司知事が「増税をする時期にはない」と見送り、自動車税に着目した。この税には、「財産に対する課税」と「道路を損傷する者の負担金」という従来の考え方だけでなく、「環境への負担に対する負担」という概念が加えることができると判断したためだ。「わかりやすくするため、1台当たりワンコイン(500円)の負担とした」(知事)というわけだ。
 環境に負担を与える自動車に課す税金を環境保全のために使うという考えは、ガソリン税などの道路特定財源を一般財源化する際に環境税に変えるという議論にも通じるものがある。
 埼玉方式に注目するのは進士五十八・東京農大教授(都市景観学、造園学)だ。同教授は「水と緑は『環境インフラ』で、川だけでなく緑に着目し、自動車税を財源に県民の意識改革を目指すものだ。基金の使途は、緑の全体量を増やし、自然と身近に接する材料となり、環境への長期的視点を育てるものになっている。県民に納税されやすいのではないか」とみる。
 ただ、異論もある。政府税制調査会・会長代理の神野直彦・東大教授(財政学)は、環境に関する税の理念としてみると、「環境意識の高揚につながるものでなければならず、自動車税の超過課税や燃料消費に課す税などを増税して自動車の利用抑制につながる制度が望ましい」という。特定分野に使途を限定する方法は議会の論議が届きにくくなる危険性があるとも指摘する。
 たしかに、自動車税から自動的に財源が確保されると、将来にわたって、予算を形式的に消化する方法に発展しかねない。実効性のない無駄な使途が出てこないかどうか、環境政策を企画・実行する上で、チェックする議会の責任が大きくなる。また、県側の独善的な政策立案にならないかも注意が必要だろう。
 県は森林保全に関するアイデアを広く県民や市町村から募り、成果は「実績報告」として来年の納税通知書に同封する予定だ。予算確保にとどまらず、住民参加を促し、環境に対する意識を高められるかも評価の分かれ目となる。

読売新聞掲載 2008年6月26日 掲載