怒る医師 「自民離れ」深刻

11月15日のことだ。仙台、千葉、横浜、名古屋、福岡など主要都市の医師会幹部が、千葉市内のホテルに集まった。
 その席で配布されたアンケート調査の結果に出席者は目をみはった。
 「これほど自民党離れを起こしているとは・・・・・」
 医師会の提言する政策を実現するための方法を聞いた設問で、「これまで通り自民党(与党)を指示していく」はわずか9%。さらに衝撃的なのは、「野党を支持し政権交代を図る」が20%にのぼっていたことだ。
 回答したのは主要都市の会員医師2362人。調査を行った千葉市医師会の会長・伯野中彦は語る。
 「我々はこれまで無条件で自民党を支持してきた。しかし、ここ数年の自民党の政策で医療現場はガタガタだ。このままでいいのかという危機感が、この数字に反映されているのだろう」
 開業医らが中心となってつくる医師会は、日本医師会(日医、会員数16万5000人)を頂点に、都道府県や郡市ごとに約900の組織を抱える。毎月の参院選で自民党から組織内候補を擁立してきた同党の有力支持団体の一つだ。

◆茨城の造反
 医師会が自民党離れを起こした直後の契機は、小泉内閣が2006年度の「骨太の方針」で社会保障費を毎年2200億円ずつ抑制する方針を打ち出したことだ。日医は「抑制策が医療現場の崩壊を招いた」として、方針の撤回を求めている。
 日医は依然、自民党支持の姿勢を保っているが、地方では自民党と距離を置く医師会も現れ始めた。
 茨城県医師会がつくる政治団体・県医師連盟は、県内7選挙区すべてで民主党候補を推薦する方針だ。同県医師会長の原中勝征は、自民党をこう批判する。
 「自民党がだめになったのは世襲議員が多くなったせいだ。2世議員は先代の安定した地盤を引き継ぐだけだから、官僚を動かすだけの力のある政治家が生まれない。
自民党は変わらなきゃいけないが、もはや自民党に自己改革できる力は残っていない」

◆火に油の失言
 麻生首相は9月の辞任以来、「日本経済は全治3年」を合言葉に歳出抑制策の見直しに前向きな姿勢を示してきた。社会保障抑制策も見直しの対象に含まれるとみて、医師会関係者は麻生による政策転換に期待を膨らませていた。が、麻生自身が、「医師は社会的常識がかなり欠落している人が多い」という失言(11月19日)で、台無しにした。
 11月29日、新潟市内のホテルで開かれた同市医師会総会で、来賓席に並ぶ自民党衆議院議員らを前に、会長の大川賢一は激しく政権を非難した。「麻生政権の迷走、迷言は情けないっ」
 麻生の失言は自民党離れの進む医師会に対し、「火に油を注ぐ」結果になった。
 麻生周辺は「医師会はそんなに票をもっていない。影響は小さい」と平静を装う。だが、千葉市医師会のアンケート調査結果にうかがえるように、”自民党憎し”で民主党支持になだれを打ったとしたら、選挙への影響は決して小さくはないと予想される。
 「アンケートは無記名だから現場の医師たちの本音なんです。それで野党支持が自民党支持より2倍もあるというのは、いまの自民党に本気で怒っているということですよ」
 伯野の言葉である。 (敬称略)

*社会保障費
 年金、医療、介護、雇用や生活保護などにかかる費用で、税金や保険料などを財源に年間約89兆円が国民に給付されている。国の一般会計からは、約22兆円(2008年度当初予算)を支出する。内訳は医療8兆円、年金7兆円などで、この二つで全体の約7割を占める。社会保障にかかる費用は、高齢化などで毎年約8000億円が自然に増えるとされる。政府は2006年度「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)で、この増加分を毎年2200億円抑制することを決めた。

讀賣新聞 2008年12月12日 掲載