転倒予防へ口腔ケア

かむことと力の発揮との間には深い関係がある。
 東京歯科大准教授でスポーツ歯学が専門の武田友孝さんによると、かむと大脳皮質の運動野が活性化され、全身の関節周辺の筋肉が動き、体が固定される。「動物がエサを食べるとき、体がぐらつかないように進化した」と解説する。
 かみしめ効果が大きいのは重量挙げのように体を固めて力を出す動きだ。逆に100メートル走などは、かめば逆効果になる。ただし、速い運動でも、体操の着地やサッカーのヘディング、ボクサーがパンチを当てた時など、瞬間的にかむことは多い。
 ボクシングやラクビーの選手が使うマウスピースは樹脂製で軟らかく、歯と歯でかむより強い力でかめる。そのため、首回りが固定されてけがを防ぐほか、より大きな力を発揮できる。
 高齢者の転倒予防にも、かむ効果は生かせる。広島大のグループが、自立歩行できる認知症高齢者146人の転倒頻度とかみ合わせの関係を調べたところ、年2回以上転倒したグループでは、奥歯を失い、かめない人が66%いたが、転倒が1回以下のグループでは22%と少なかった。奥歯がない人でも入れ歯でかめるようにすると転倒は減った。
 日本歯科大病院口腔介護・リハビリテーションセンター長の菊谷武さんは「かみ合わせが戻れば、転倒しそうなった時にふんばりが利き、バランスが保てる。高齢者の自立支援には、口腔機能の改善が欠かせない」と話している。
 健康情報があふれる中、「かむ」という基本動作の重要性を見直したい。

藤田勝
讀賣新聞 2008年12月13日 掲載