インプラント治療の危険性

東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長 安田 登

まさに「諸刃の剣」というほかはない。確かに有効な手段で、素晴らしい治療法なのだが、一つ間違うととんでもないことになる。何の話かというと、今ものすごき勢いで広まりつつ歯科インプラントのことである。
 歯を失ったところに、人工の根を埋め込むインプラント。歯科医院で勧められた皆さんは、部分入れ歯やブリッジより、はるかによい方法であるとか、第二の永久歯と呼んでもよいなどという、夢のような話を多く聞かされたことと思う。
 ところが、インプラントの危険性についてはあまり聞かされていないようだ。インプラントする場所の骨が薄いから、骨を足さなくてはならないとか、神経が近くにあるから手術が難しいなどという説明はあっても、インプラント自体がかなりリスクの高い修復法であることの説明は少ない。
 そもそもインプラントは、部分入れ歯やブリッジなどと違って、神経や血管が分布している骨の中にまで入り込む外科手術の一つであることを肝に銘じなければならない。
 歯科医はその教育課程の中で、インプラントの臨床実習はない。ということは、歯科医師免許を取得してから研修することになるが、もちろん1日や2日の講習会ですべてを覚えられるものではない。ところが術式そのものはそんな難しくなく、しかも高額の治療費を要求できるので、歯科医が容易に取り入れる傾向にある。
 まだ保存可能な歯を残す努力もしないでインプラント治療を勧める、なんて考えたくはないが、そういう話も聞こえてくる。
 半分を骨の中に埋め、残りの半分を口の中に露出しているインプラントは、常に生体の拒絶反応と感染の恐れにさらされている。そのため感染対策が十分でないと、歯周病のようにインプラントの周囲が腫れてしまい、ぐらぐらとなってインプラントを除去しなくてはならない。
 手術中に神経を傷つけて唇のまひがいつまでも続いたり、血管を切って極度の内出血が起こったりして、訴訟問題にまで発展することも多い。
 ある歯科大学の口腔外科の教授が「君たちの安易な手術せいで、インプラント除去に忙殺されている私たちの身になってくれ!」と講演会で叫んだ声が忘れられない。
 うまい話にゃ裏がある、とまでは言いたくないが、治療費が高額なだけに、セカンドオピニオン(主治医以外の第二の意見)を受けて慎重に選択するのがよい。近年の、インプラントの進歩を否定するものではないが、臨床応用するには歯科医の十分な訓練や資格を厳しく定めることが必要というのが正直な思いである。

讀賣新聞 2008年12月19日 掲載