工業用需要冷え資金撤退

大郷秀爾

今年前半まで高騰が続いていたプラチナの価格が、夏ごろを境に急落しています。世界的な金融危機を背景に、工業用の需要が冷え込んだことなどが影響したようです。一方、個人投資家の間では、投資対象としての人気が高まっています。

講義
永田かすみさん
「プラチナといえば、先日お店に行ったらアクセサリーの値段も下がっていたわ」
大手町博士
「プラチナの地金価格が暴落したからだよ。地金価格は今年3月には、ニューヨーク市場では1トロイ・オンス(31.1035グラム)当たり2272.5ドルの最高値を付けた。それが、10月には同767.5ドルと3分の1程度にまで下がった。同じ貴金属では金の値段も下がったが、下落幅はピークから3割程度にとどまった。プラチナ価格の下落はの激しさがわかるだろう」
日本ジュエリー協会広報部会委員の植松敏さん
「プラチナだけを使った宝飾品は、当然地金価格の影響が大きくなります。価格への影響に時間差はありますが、それでも11月以降、国内、海外ブランドともに5〜10%程度下がってきていますね」
神田かぶとくん
「でも、今年前半は価格が上がっていたんだよね。なぜですか」
博士
「まず、供給の面でトラブルがあったのだよ」
石油天然ガス・金属鉱物資源機構希少金属備蓄部企画課長の北良行さん
「世界の年間生産量は200トン程度で、2400〜2500トンの金と比べても少量です。そのうち、南アフリカが7割強、ロシアが2割弱と2国で生産量の大半を占めます」
三菱商事商品市場事業ユニットチーフマーケターの原田和佳子さん
「その南アで今年1月、電力供給がストップし鉱山の操業が一時停止しました。生産量の低下による価格の上昇が見込まれたため、市場に投機的な資金が流れ込み、価格が上がったのです」
博士
「一方で、工業用の需要が強かった」
北さん
「世界全体のプラチナ需要の約6割が自動車用です。排ガスに含まれる有害物質を除去する触媒として使われます。また、電子部品にも利用され、工業向け合計が約8割です。宝飾品への利用は2割程度です」
田中貴金属工業金属部長の池田収さん
「価格上昇を見込んだメーカーが在庫の積み増しに走るなど、様々な要因で高騰が続きました」
かすみさん
「一転して急落したのはなぜでしょう」
原田さん
「9月のリーマン・ブラザーズの経営破綻など世界的な金融不安が広がる中、投機的資金が市場から急速に引き揚げました」
池田さん
「自動車は減産に向かい、積み増された在庫が落ちたのです」
博士
「一方で個人投投資家の人気は高まっている」
池田さん
「田中貴金属では、10月の販売量だけで、2007年全体の1.3倍に達しました。問い合わせも増えています。厳しい経済情勢の中、財産保全を見直す人が増えているのでしょう」

補修
再利用の推進コストが課題
博士
「日本はプラチナを輸入に依存している。安定供給のためには、国内でリサイクルを進めることも必要だね」
矢野経済研究所上級研究員山王功二郎さん
「工業用で再利用されるのは、電子部品などを製造する過程で出てくる端材(削りカスなど)がほとんどと言われます。海外から回収し、国内で処理して再利用するケースもあります。一方、宝飾品はリサイクルショップに売られるものが業者に回収されます。精錬などの処理を経て、再利用される仕組みです。国内の回収量は徐々に増えており、08年度は50トン前後が回収される見通しです」
博士
「プラチナのリサイクルには課題も多い」
原田さん
「消費者の手元にある製品を回収し、プラチナを取り出すのは手間のかかる作業だけに、運搬費や人件費が高くなります。リサイクルを進めるにはコストを抑えるシステムが必要です」
山王さん
「一部の回収業者などでは、プラチナを含む希少金属が使われているビデオカメラなどの小型家電を集めるため、回収箱を実験的に公共施設や店舗などに設置しています。こうしたリサイクルを推進する動きは、消費者の意識が高まるにつれて活発になっていくと考えられます」

夕刊讀賣新聞 2008年12月9日 掲載