夢運ぶお菓子
 一期一会の飴細工

甘いものを食べると、何だかほっとして、あったかな気分になりませんか?いつの時代もささやかな幸せと安らぎをもたらしてくれる、そんなお菓子の世界に魅せられた人たちを訪ねた。

 冷たい風が吹く1月下旬の鹿児島市。大型スーパー前の路上で、飴細工職人、前川寿浩さん(44)が、飴を練り、糸切りばさみを使って細工を施し始めた。
 道行く人が足を止める。ほんのりと琥珀色をした飴は、練って延ばされると、空気を含んで白く光ってくる。赤、青、黄3色の食紅を使えば色も変幻自在だ。練り出してから約3分。ごつごつした手の中で、アンパンマンが笑っていた。
 前川さんは大阪を中心にイベントなどで飴細工を披露して販売していた。日本で古くから受け継がれてきたのに、意外と知らない人が多かった。「魅力をもっと伝えたい」。昨年3月、リヤカーに道具を積み、自転車で引いて日本一周に出発した。関東、東北、北海道と巡り、関門海峡を渡って11月に九州へ入った。リヤカーは2台目、自転車は3台目になる。
 4、5歳の頃。幼稚園からの帰り道、大阪市の自宅近くの小さな神社で、初めて飴細工に出会った。珍しい動物が魔法のように次々と生まれる様子を、人垣の一番後ろで眺め続けた。
 ビル管理会社に勤めていた39歳の時だった。「本当に一生続けたい仕事は、ほかにあるんちゃうか」と立ち止まった。真っ先に浮かんだのが、子どもの頃に鮮烈な思いで見た飴細工だった。迷わず大阪市の職人の元に飛び込んだ。半年間の修業の後、独学で腕を磨き、約100種類を作れる。
 日本一周では、一つの県に1週間ほど滞在し、路上で実演販売する。同じ場所で2度披露することはない。「一期一会」を大切にし、目の前の人のために技術と魂を飴に込めるためだ。
 1個300円。子どもに買ってもらうには、ぎりぎりの値段だ。「受け入れてもらえるだろうか」。出発前の不安は、取り越し苦労だった。大人は「懐かしい」と思い出を語り、子どもはぽかんと口を開け、やがて目を輝かせた。最後は、「おっちゃん、また来て」と最高の褒め言葉がかかる。  「僕が元気と優しさをもらっている。こんな幸せはないですよ」
 宿代がかかるため、蓄えを切り崩しながらの旅だが、構わない。
 「何個売れるかじゃない。一つでも、その人の心にあったかいものが残ればいい」
 旅は6月までの予定にしていた。今は、もう少し延びてもいいと思っている。

讀賣新聞 2009年2月23日 掲載