役になりきって

パート 佐々木 久美子 63 (東京都豊島区)

小学校低学年の頃、私は学芸会の劇で、子ギツネ役を演じた。練習の時、動物村の友達と別れる場面で、先生から「本当に泣いているみたいにやって」と演技指導を受けた。私は友達と「涙の代わりに、つばをつけようか」と話していた。
 ところが、いざ本番になると、役になりきってしまい、「みんな、さようなら」というセリフで、とうとう本当に泣き出してしまった。まさに号泣だった。
 頭に付けていたキツネのお面はずり落ち、先生に手を引かれながら舞台を下りた。泣きじゃくる私に、先生は「すごい。上手!」と言い、ほおの涙をぬぐってくれた。

讀賣新聞 2009年3月1日 掲載