逆に気遣われた

主婦 伊藤ゆかり 45 (愛知県岡崎市)

義父が末期がんだと宣告されたのは一昨年の夏。余命3か月と告げられた。
 家族会議で本人には告知しないと決めた。入院中、食事を制限されても、機嫌良く過ごしていた。やがてげっそりやせたが、幸い痛みはなかったようで、文句一つ言わなかった。
 亡くなる前日、義父は急に痛みを訴え、「死にたい」と言った。そして、「ありがとう」と弱い力で息子である夫の手を握った。
 もしかしたら義父は、自分の命が残りわずかと知りながら、家族に余計な気遣いをさせまいと秘密にしていたのではないか。今でも時々そう思う。

讀賣新聞 2009年3月29日 掲載