メスを求めて悶々

池田 晴彦 (生物学者)

生物の世界にオスとメスが存在するのはなぜだろう。これは難問で、本当の理由はよくわからない。でも、ほとんどの生物では、オスは求める性で、メスは求められる性だ、ということはほぼ正しい。
 春になると、キャベツ畑の上をモンシロチョウが沢山飛んでいる。最近では農薬のせいか、モンシロチョウもずいぶん少なくなった。買ってきたキャベツを幼虫に食べさせたら、次の日に死んでしまったという話もある。
 それはともかく、畑の上を飛んでいるのは大部分はオスなのだ。オスはサナギから羽化してくるメスを鵜の目鷹の目で探しているのだ。処女のメスをいち早く見つけて、まっさきに交尾しようという魂胆なのである。だから羽化してくるメスは、あっという間に生娘でなくなってしまう。
 オスのモンシロチョウはなぜそんなにあせっているかと、一度交尾したメスは、もうこりごりとばかり、まれな例外を除いては二度と交尾しようとしないからである。自分の遺伝子を残すためには処女を見つける他はない。人間のオスもメスを求めて悶悶としている点ではモンシロチョウとさして違いはないが、相手は必ずしも処女でなくてもいい点で、少しばかりめぐまれているのかもね。

讀賣新聞 2009年3月31日 掲載