SIX AT CORNERS from EUROPE

Giorgetto Giugiaro

今月のコラムは、もしかしたら読者のみなさんが驚かせてしまうかもしれない。私にはこの季節になると必ず思い出すヘッドライト用ランパディーナ(=電球)がある。この”ダブル・フィラメント”の電球に込められた私の思いを聞いてほしいのだ。
 30年前に時間を戻す、1980年の春、私はイタルデザイン・ジウジアーロのプロトタイプを制作するオフィチーナで、その年のトリノ・ショーに出品するコンセプトカーの準備を進めていた。そのモデルの特徴は非常に優れたエアロダイナミックスを備えていることだった。CD値はなんと0.263。この時代、量産車のコンポーネンツを流用した車としては世界でもっとも優れた数値だった。ちなみにエンジンはランチア・ベータ・モンテカルロから拝借していた。
 エアロダイナミックスに優れたスタイリングながら室内は充分なスペースを備え、またそのボディの大柄さにもかかわらず軽量であることも注目すべき点だった。しかしながらここで一番強調したいのは、この車に採用した電球のことである。
 私のこのショーカーのヘッドライトとして、冒頭に述べたダブル・フィラメントの電球を使った。ダブル球としたのは、ひとつはポジション用、ふたつめは(リアランプと同じように)ブレーキングと連携して点灯させるためである。
 フロントでもブレーキの作動を視認できる意味は大きいと私は現在でも確信している。たとえばあなたが道路横断中に車が迫ってきたとしよう。その車のドライバーが歩行者(=あなた)を認識しているかどうか、つまりブレーキペダルを踏んでいるか否かを、この”フロントブレーキランプで即座に知ることができる。路上を走るすべての車両がこのシステムを搭載していれば、ルームミラーを見ることで後方車両の動向をつかむこともできる。これは前方で突然に渋滞が始まるなどして急減速を余儀なくされた場合、後方車両がその状況に気づいているかどうかも判断することができる。これは重要だ。むち打ち症の原因となる激しい追突に対して、なんらかの準備行動を取れるかもしれないからだ。
 自動車の安全性は、各メーカーがずっと焦点を当て続けてきたテーマだ。ユーザーはもちろん社会も、車の安全性確保を強く望んでいるからだ。しかしながら新たな安全装置というものは往々にしてハイ・コストであることが難点である(電子制御技術であることが多いからだ)。その点では私が提案したライト・システムのコスト上昇は、ほぼゼロと言って良い。
 告白するなら、トリノ・ショーでこの”メドゥーザ”を発表したとき、新採用したフロントライト・システムに対してどんな反応が返ってくるか、私は大いに期待していた。しかしながら、蓋を開けてみれば、自動車ジャーナリストからもメーカー関係者からも評価されることはなかった。これには大いにがっかりさせられたものだった。
 あれかr長い年月が流れたが、もう一度、この話を記してみようかと思い立ったのは、このコラムの掲載が日本の専門誌であるからに他ならない。カーグラフィックの読者なら理解してもらえるのではないかと考えたからである。
 日本の自動車メーカーは技術革新において大いなる投資を行ってきた。ハイブリッドカーの分野で世界の先頭に立っている事実だ。メーカーが世界の環境問題に対して真剣に対応した結果だ。そしてそれはつまり、日本の社会的要求に応えたということであろう。そういう”感度の高い”社会なら安全性のテーマに対しても反応があるに違いない・・・・・そんな期待感が私の背中を押し」、30年前に眠ったなずの提案を掘り起こす気にさせたのだった。
 この小さな電球の可能性を真摯に受け止めてもらえないだろうか。LEDを使えば”ダブル電球”を作ることなど容易いはずだ。路上でテストしてみる価値はあるのではないだろうか。全世界的に普及させることは、統一規格の必要もあり、難しいだろうが、その有効性は理解させるはずだ。
 私は50年にわたって、あらゆる分野で様々なものをデザインしてきた。イタリアには、私がデザインしたニコン製カメラを覚えている人々がいる。いや、代表作はフィアット・パンダだと言う人もいる。当然のようにフォルクス・ワーゲン・ゴルフを挙げる人も多い。それどころかジウジアーロの代表作はパスタ(その名を”マリッレ”)だという人もいるくらいだ。私自身としては、ジウジアーロの名前が”ランパディーナ・システム”の発明家として大衆の胸に刻まれることも、やぶさかではないのだが・・・・・・・。

カーグラフィック09-07 掲載