歯科のグローバル化と違法行為

脇本征男 (東京都・歯科技工士)

歯科技工士として43年間、歯科医師の発行する指示(書)に基づいて患者さんの義歯作りと、それらを修理することを業としてきた。わが国でこれを成すことができるのは昭和30年に制定された歯科技工士法で歯科医師と歯科技工士だけと定められている。同法ではその目的や定義、業を成す場所や、届出等の細かい規制を敷き、違反者には改善命令や刑罰が科せられる。歯科技工士は国家試験であり、高卒後、所定の教育機関を卒業し、国家試験に合格した者のみに厚生労働大臣免許が与えられる。  十数年前から、グローバル化の流れで海外で制作された「歯科技工物」が何の規制もなく国内に持ち込まれ、歯科医師の手によって患者さんの口腔内に装着されていることが露見されている。業界組織でも再三俎上にのぼり、違法行為であることから司法に対して早急に取り締まりや指導を求めるよう要請してきたにもかかわらず、遅々として具体的是正や改善が進まないまま今日に至っている。
 歯科技工の海外委託問題は、歯科技工士制度の根底を脅かし、ひいては歯科技工士法の趣旨・目的である「国民の安心・安全な歯科治療実現に資する」ことを脅かす深刻なものである。私たち歯科技工士有志80人は、2007年6月、歯科技工士制度を維持・充実・発展させ、国民の安心・安全な歯科治療を実現することを求めて、東京地裁に訴訟を提起した。08年9月、東京地裁は私たちの請求を退けたが、原告たちは直ちに控訴し、現在、東京高裁で審理されている。
 4月15日の第三回弁論で、裁判長から「進行協議」を設けることが提案され、和解による解決を検討することになった。誠に画期的なことで、国民の安心安全確保の上で願ってもないことで、ありがたいと考えている。
 私たちは裁判所での協議の中で、歯科技工の海外委託問題解決のために、国に対し、専門に検討する機関の設置を検討するよう呼びかけている。この機関の構成メンバーには厚生労働省はもちろん、日本歯科医師会や日本歯科技工会など歯科医療関係者や、国民の視点からこの問題を検討するための消費者団体関係者等の参加を求めている。また、原告団及び原告弁護団の中からもメンバーを選出してもらいたいとの要望も述べている。この機関では、歯科技工の海外委託問題について、新たな法整備等も含めた多角的な検討が望ましいと考えている。
 国はマスメディアを介して「海外への委託を阻止する法的規制がない」と報じているが、歯科技工士法17条に「歯科医師又は歯科技工士でなければ、業として歯科技工を行ってはならない」とある。国内法だがら海外の者を規制できないことは自明だが、相手が無資格者と知りつつ経済優先で発注し、「どんな材料で、誰が作ったのかも分からない」脱法行為の繰り返しは、グローバル化の名を借りた違法行為だ。法治国家の我が国において、国民の口腔の安心・安全確保のため、ひいては国民の健康維持と生命にも重大な影響を及ぼしかねない事態は、法律的にも条理上も許しがたいことである。
 今、国民の健康を守るために国家免許資格者「歯科技工士」の威信にかけ、問題解決のため身を賭して闘っている。より一層のご支援ご協力をお願い申し上げます。  

日本歯科新聞 2009年6月2日号 掲載