入れ歯安定剤で神経障害
米で報告 成分の亜鉛 過剰摂取

入れ歯使用者の増加とともに、入れ歯のぐらつきを抑える安定剤の使用も広がっているが、長期の過剰な使用による神経障害と考えられる症例が、米国で報告されている。日本では報告されていないが、心配はないのだろうか。
 昨年秋、米テキサス大学が発表した論文によると、手足の力の衰えや知覚異常、尿失禁などの神経障害がある40〜60歳代の男女4人の血液を調べたところ、亜鉛濃度が高く、銅濃度が低かった。4人は入れ歯使用者で、亜鉛が入った安定剤のチューブを週2本以上使い、1日に330ミリ・グラム以上も亜鉛を摂取していた。通常は1本で3〜10週間もつ。
 亜鉛は人体に不可欠な元素で、サプリメントで補う人も多い。しかし、長く過剰摂取すると銅の欠乏を招き、貧血や神経障害を起こすことが知られている。
 福岡県飯塚市の歯科医師広瀬知二さんが、国内で売られているクリームタイプの安定剤3種類を調べたところ、2種類は亜鉛を含まなかったが、グラクソ・スミスクライン社の「新ポリグリップEX」には、1グラム当たり33.5ミリ・グラムの亜鉛が含まれていた。
 厚生労働省の食事摂取基準によると、成人1日の亜鉛摂取量の推奨量は男9ミリ・グラム女7ミリ・グラム。健康障害の危険がない上限量は30ミリ・グラム。広瀬さんは「使い方によっては、上限量を超える場合もあるのではないか。長期の過剰使用には注意したほうがいい」と話す。
 同社広報部によると、亜鉛入り製品は接着力が持続し、1回で終日もつ。添付文書では1回の使用量は最大でチューブから約3センチ(0.69グラム)としている。1日使うと60%が溶けて体内に取り込まれるが、亜鉛の摂取量は十数ミリ・グラム以内にあさまる計算だ。
 小松義明広報部長は「普通に使えば心配はないが、利用者は高齢者が多いので、家族も気を配ってほしい」と言う。米国での報告に対応し、添付文章に新たな注意書きを加える方針だ。
 グラクソ・スミスクライン社の推計では、国内の入れ歯使用者は約2820万人。うち十数%が安定剤を使っているとされるが、こまめに入れ歯の調整をしていれば、通常、安定剤は必要ないものであることを忘れないようにしたい。

讀賣新聞 2009年8月16日 掲載