ラッシーが教えてくれた

ヒロコ・グレース (タレント)

我が家では中型のミックス犬、ネネとペロの2頭を飼っています。昔から動物が好きですが、なかでも犬とはずっと何か特別なつながりを感じていました。
 最初に犬を飼ったのは7歳の時。でもその前から友達の家や外で見かけた犬たちに自然と話しかけ、よく遊びました。どんなに大きくても愛らしいと感じ、怖いと思ったことはありません。自分よりも大きい大型犬を長時間抱っこする撮影の仕事の時も、犬と何か通じるものを感じて、普段より元気よく仕事に向き合えました。
 初めての犬は生後6か月で、その頃大好きだった映画から「ラッシー」と名付けました。「チベット原産のラサ・アプソの飼い主募集」の新聞記事を父が見て、長年のおねだりが実現したのです。毎日学校から帰ると一緒に遊ぶのが何より楽しくて、まるで姉妹のように接しました。
 両親と私の3人暮らしだった当時の家にラッシーが加わることで新しい関係性が生まれたのが新鮮でした。近所よりちょっと離れたところまで「冒険」に出た時は、ラッシーはいつもそばにいてくれて信頼できる相棒となります。落ち込んでいる時は、じっと話を聞いてくれる相談相手にもなってくれます。ウソのない、その真っすぐな性格がたまらなく好きでした。
 今考えると兄弟がおらず、小さい頃から仕事を始めた私にとって、「犬」は親や友人と同じくらい、私の人間形成に大きな影響を与えた存在だったと思います。  そんなラッシーがある朝突然、ベッドの足元で死んでいました。まだ9歳で、前の晩まで元気よく遊んでいたのに・・・・・。その日、雑誌の仕事があったのですが、どうしても涙が止まらず、スタッフの配慮で早く帰らせてもらいました。
 冷たくなったラッシーのそばに一晩中ついていました。つらかったのですが、生きている限り、終わりはいつか来ること、現在という時間をもっと大切にして生きることを、その時、ラッシーに教えられました。
 その後は「ラッシーの死は世話を怠ったせいでは」「次の犬をラッシーと比べてしまいそう」という思いから、何年も犬を飼う気持ちになれませんでした。しかし、20歳前半の頃、獣医師さんに「犬はそういう経験をされている人に飼ってもらいたいものですよ」と言われました。その言葉に背中を押され、また犬と一緒に暮らしたいと強く思うようになりました。
 完璧な人間がいないのと同様に、完璧な飼い主もいない。大切なのは愛情と責任、そして信念を持って接すること。その頃、人生の階段を一つ上がった気がしました。間もなくネネとの出会いが訪れます。  

讀賣新聞 2009年9月4日 掲載