国保組合の厚遇「聖域」

補助 与野党から圧力
厚労省「前年実績」を踏襲

建設業や医師などの自営業者が職能ごとに組織している国民健康保険組合(国保組合)に対する国の手厚い補助が明らかなった。背景には、与野党の政治家が長年にわたり厚生労働省などに「厚遇」を働きかけてきた経緯がある。
政治部 米川丈士、社会保険部 石崎浩

■実態公表せず
 「減税につながる実態の公表は、触れてはいけない領域だった」
 ある厚生労働省の元幹部は、国民健康保険組合に対する国からの補助の詳細な実態が公表されてこなかった理由についてこう明かす。
 6日に初めて公表された結果は、国保組合の「厚遇ぶり」を裏付けるものだった。
 保険給付費に対する国からの補助の割合は定率32%で、組合の財政力が低ければ55%まで上積みされるが、公表資料によると、2007年度に55%を超えていた組合は165中19あった。そのうち8組合については、1年間の保険給付費を上回る積立金を保有しており、財政が切迫している状況ではなかった。
 また、加入者に対する独自のサービスを行っている組合もあった。補助率が55.9%だった北海道建設国保組合は、一般的には自己負担が3割となる入院医療費を無料にしていた。
 入院だけでなく外来治療も無料にしていたのは、兵庫県建設国保組合(補助率47.5%)と三重県建設国保組合(同46%)だ。
 ある医師関係の2組合は、国の補助率は低いものの、加入者の家族の入院、外来両方を無料にしており、財政の余裕がうかがえる。
 医師関係の組合については、収入が高くなるにつれて保険料も増える市町村国保に比べて、保険料が定額の組合があり、負担が少なくなっているという指摘もある。こうしたサービスは市町村国保にはないもので、165組合のうち37組合が実施していた。

■政治的要因
 国保組合は元々、国民健康保険制度の発足前から設立されていたもので、市町村国保とは別に例外的に認められている。歴史が長く、同じ職種、同じ地域で組織されるため結束力も強い。選挙の際の集票力には、自民党だけでなく、民主党や社民党などほとんどの政党が頼ってきた経緯がある。
 建設関係の国保組合を運営する全国建設労働組合総連合の定期大会には、各党の国会議員が顔を見せる。昨年10月の大会では来賓の仙谷行政刷新相が、「建設国保は健康を守る武器として、何が何でも守っていかなければならない」とあいさつし、蜜月ぶりをアピールした。
 厚労省の元幹部は、「すべての党が国保組合への補助を働きかけていた」と、振り返る。特に、55%の上に更に「特別な事情」で加算する特別調整補助金については政治的配慮が働き、ほぼすべての組合に支給されてきたとの指摘がある。
 厚労省国民健康保険課も、「前年実績で続けてきた」と認める。

■不透明な改革
 長妻厚労相は「補助率が適正か総合的に判断していく」と述べ、各組合の財政状況などを更に調査し、補助金の減額も視野に改革を行う方針だ。
 ただ、民主党や社民党の中に国保組合とのつながりが強い議員がいることから「手を付けようとしても大幅な改革は行えないだろう」と実効性を疑問視する声も同省内にはある。
 また、2010年度は補助金が予算案に計上されたことから、長妻厚労相は改革論議を11年度予算からにすることを指示しているが、関係者の一人は「問題が収束する前に、10年度予算で削減の論議をすべきだ」と指摘する。

チェック怠る
堤修三・大阪大教授(社会保障政策論)

 「入院時の医療費を無料にしたり、多額の積立金を持っていたりする一方で、国から手厚い補助金を受ける国保組合があるのは不公平だ。こうした補助金が『前年踏襲』で何十年も続いてきたのに、国会も役所チェックを怠ってきた。厚生労働省は各組合の実態を早急に調べ、財政が本当に厳しい組合以外は補助金を減額すべきだ」

制度分立、格差に不公平感
日本の公的医療保険

 日本では、大小合わせて約3500の公的医療保険が分立している。
 大企業などが従業員の福利厚生のために設けている組合保険は、全国に1474組合ある。中小企業の従業員と家族は「協会けんぽ」に加入する。それ以外の自営業者、サラリーマンを退職した無職の人などが加入するのが、各市町村が運営する国民健康保険(市町村国保)だ。
 国保組合は、市町村国保の加入対象となる自営業者のうち、医師や建設業者などが組織している。
 また、どの医療保険に加入していた人も、75歳になると後期高齢者医療制度の対象になる。
 このように制度が分立し、保険給付と保険料がまちまちであることが、国民が不公平感を抱く原因になっている。
 たとえば、組合保険の保険料率は平均7.4%なのに対し、協会けんぽは全国平均8.2%で、大企業より中小企業の従業員のほうが保険料率が高い。市町村国保は地域の医療費水準と住民の所得格差が保険料に反映するため、自治体間で保険料に最大約5倍もの格差がある。
 民主党は昨年の衆院選のマニフェスト(政権公約)に、医療保険を段階的に統合する方針を盛り込んだのは、格差是正が必要だという考えからだ。急速に進む高齢化で、各制度の財政は厳しさを増している。市町村国保の多くは慢性的に赤字で、市町村が一般会計から巨額の穴埋めを強いられている。協会けんぽも財政が悪化、3月分から保険料率1.1ポイント引き上げて平均9.3%程度にする方針。組合保険も7割が赤字で、組合を解散して従業員を協会けんぽに移す企業が相次いでいる。

讀賣新聞 2010年1月8日 掲載