中国の実態伝える「名所」

中国総局 関 泰晴

北京のある青年は最近、外国人の友人や知人を連れて、とある「観光名所」を案内するようになった。世界遺産の故宮や天壇公園といった有名な場所ではなく、これという見所があるわけでもない。しかも、かなり「危険」を伴う。
 中国の民主活動家で、今年のノーベル平和賞受賞が決まった劉曉波氏(54)の妻、劉霞さん(49)が住むマンションのことだ。公安当局は10月8日の受賞決定直後に劉霞さんを監視下に置き、現在も自宅軟禁状態にしている。
 場所は北京中心部にあり、中国人民解放軍を指揮する中央軍事委員会の施設裏手にある。武装警察部隊が周囲を巡回し、道端に「軍事禁区」の看板も見える。鉄柵で取り囲まれているマンションの敷地は、住民以外は立ち入れ禁止。正面の両側の歩道は、バリケードのような工事用防護壁が設置された。  「ここは私にとって、自由を抑圧する現在の中国を理解するうえで最高の場所だ。人々を遠ざけるバリケードを見て、とても悲しくなった」。青年に案内された米国人は、こんな感想を漏らした。
 この青年が、外国人を案内するようになったのは、知人の外国人に「劉霞さんの自宅の場所を知っているか」と尋ねられたことからだった。劉氏のノーベル賞受賞が決まり、劉霞さんが軟禁状態にあることはインターネットでみて知っていた。劉氏が中心となった民主化要求文書「08憲章」も読んでいたという。
 興味もあって、この知人を案内し、厳重な警戒が敷かれている様子を初めて見て、「一人の人間の自由を奪うため、ここまでやるのか・・・・・」と憤りも感じた。以来、何度も人を案内した。当局の監視を恐れて、電子メールも携帯電話も使わず、信頼できる口コミの紹介のみで活動を続ける。もちろんお金は取らない。  「外国人は中国の表面的な発展に目を奪われ、実態を知る機会が少ない。でも、劉氏夫婦の自宅周辺に来れば、自由や民主を抑圧する中国の現状を感じてもらうことができると思う。ここは立派な『観光名所』です」
 ノーベル平和賞の授賞式を10日に控え、北京では公安当局の監視態勢が一段と厳しくなっている。ある民主活動家の推計によると、北京で自宅軟禁状態にあるなど、重点的な監視対象となっているのは弁護士や学者ら50人以上に上る。
 独裁維持に全力を傾ける共産党政権が、膨大な精力を注ぎ込んで人々を抑え込んでいる実態を知る「観光名所」となりそうな場所は、今後も増えそうだ。民主活動家は「我が家も公安当局の車両が周辺に駐車し、私服警官が24時間態勢で巡回している。そのうち『観光名所』になるかもしれないね」と話した。

讀賣新聞 2010年12月5日 掲載