補綴構造設計士・歯科技工士川島 哲の世界
ユニデントについて PSD 著書紹介 セミナー 執筆記事 気になるニュース テクノバリュー トピック ホーム

薬害エイズ事件に隠さたもう1つの事実
「外科医は損、内科医は得」でいいのか?

精神科医 Hideki Wada

薬害エイズ事件で、HIV(エイズウイルス)に汚染された輸入非加熱血液製剤の回収措置などを怠り患者を死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われた松村明仁・元厚生省生物製剤課長の上告が棄却され、有罪が確定した。
 この事件は、死者の数(現地点で600人以上)では戦後最悪の薬害事件である。不作為が過失と言えるかどうかが争点となったが、有罪は当然だと私は思う。  ただ、この事件に関する問題は別にもう一つあると考えている。それは、薬の副作用で大量の死者が出ても、現場で薬を投与した医師は全く責任を問われないという悪しき前例を作ったことだ。
 この事件で大量の感染者を出した当時、即に安全な加熱製剤の治験が始まっており、欧米では加熱製剤が使われていた。また、製薬会社の医療情報提供者に頼めば、文献検索がいくらでもできたし、血液製剤とHIV感染の関連を問題にした論文が1984年頃までに100程度は出ていた。非加熱製剤に危険があることは、まともな医師なら分かったはずだ。
 学会のボスとしてこの事件に大きな影響を与えた安部英・元帝京大副学長(故人)の際にも、非加熱製剤を使用した患者の半数がHIVに感染したと分かっていたことや、代わりにクリオ製剤(国内の少人数の血で作る製剤)が使えたという証言も出ている。
 要するに、危険な薬であるとの認識があり、ほかの薬が使えることが分かっていたにもかかわらず、非加熱製剤を使い続けていた医師がいたはずなのである。
 それなのに、実際に血液製剤を投与した医師たちは、安部氏を除いて、一人として民事でも訴えられなかった。刑事でも製薬会社の元社長や元厚生省の役人だけが訴えられ、民事で賠償金を支払ったのは国と製薬会社だ。
 言わば、副作用で人が死んだり被害を受けたりしても、代わりに製薬会社が罪をかぶり賠償金を支払うシステムに、お墨付きが与えられたようなものだ。個人の医師であれば賠償は相当きついだろうが、製薬会社なら民事訴訟の賠償金程度は「織り込み済み」にできる。
 一方、外科医は受難の時代だ。手術時のミスで訴えられるのは当たり前というコンセンサスが形成されつつあると同時に、世界でも例を見ない形で刑事犯とされてしまう。外科医のなり手は減少し、各地で深刻な不足が起こる。
 厚生労働省は病院の中で亡くなった人の死因が不明なケースは、全件報告され、調査した上で捜査機関に送るという「事故調」なるものの新設を考えている。だが、もしそうなれば、多くの外科医が危険な手術を避けるだろうし、内科医の看板を揚げて開業医へと化ける医師が増えるだけではないか。
 米国のように薬の副作用の不勉強の責任を内科医にとらせるシステムを作るべきだと思う。それが無駄な薬剤使用を減らすことにも繋がるだろう。

日経ビジネス Associe 2008年4月1日掲載
Copyright UNIDENT Co.,Ltd. All rightss reserved