補綴構造設計士・歯科技工士川島 哲の世界
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歯科の実力

 歯を削られすぎていませんか?必要ないのに抜かれていませんか?

表紙    冒頭インタビュー   快適な入れ歯の追求から、新たな和の伝統づくりへ


より納得のいく治療と出会うきっかけにしてください

読売新聞医療情報部次長 渡辺勝敏

「歯科の実力」って?

 「入れ歯が痛くて困っているんですが、近くでいい歯医者さん教えてください」「できるだけ歯を削らない歯科医はわかりませんか」「インプラントを勧められましたが、ほんとうにいいんですか」・・・・・・。  読売新聞朝刊では週5回「医療ルネッサンス」という連載を続けています。さまざまな病気の治療法や付き合い方などをテーマにスタートして16年、4300回を超えた読売新聞の看板企画です。そこで、2005年から、「シリーズ歯科」というタイトルで、虫歯、歯周病、矯正、根の治療など歯科に関するテーマを随時扱ってきました。そのつど、記事で紹介した歯科医には、電話が殺到し、私たちの元にもはじめに触れたような問い合わせが全国から寄せられ、歯科で困っている人が少なくないことを知らされました。「どこへ行けばいいのか」という切実な声ばかりです。
 手術になるような重い病気の治療については、「病院の実力」のタイトルで、医療機関にアンケート調査をして集めた治療実績などの情報を提供してきました。毎月第1、第5日曜日の読売新聞、そして雑誌、インターネットのホームページ「読売オンライン」とさまざまなメディアで展開し、一般の読者だけでなく、医療関係者からも高い評価をいただいています。それだけに、読者からの問い合わせを受けるつど、「歯科でも、多くの人に役立つ情報を提供できないか」という思いは募りました。  しかし、歯科の場合は、個人開業がほとんどで、何を基準に紹介すればいいのか、簡単ではありません。口内の管理や説明をていねいにしてくれて、できるだけ歯を削らずに治療し、かみ合わせや入れ歯はぴたりと合う、それでいて保険診療・・・・・。そんな歯科医と出会えればいいですね。ですが、歯科医自身が「歯医者選びは難しい」とこぼしているのをしばしば聞きました。”職人”としての技術だけではありません。診断や治療方針が、実は人によって異なってくるので、単純に「いい歯医者」と言い切るのは、なかなか難しいところがあります。
 インターネットを開けば、口コミによるランキングなども見つかります。ただ、信頼性については、「?」という感じがぬぐえません。どうしたらいいものかと考える中で注目したのが、分野ごとに学会が設けている専門医や認定医の資格です。

専門医や認定医って何?

 体の病気には、内科、外科、泌尿器科などの専門分野がありますが、歯科にもそういった専門があるのはご存じですか。
 「矯正歯科」や「審美歯科」。そんな看板は目にしますね。じゃあ、「補綴」という言葉はどうですか、それに「歯内療法」、あるいは「接着」とは、なんのことでしょうか。大学の歯学部には、こんな専門分野がありますが、一般にはあまりなじみのない言葉です。記者である私自身、取材を始めるまで、その意味など知りませんでした。  「お医者さんなら、胃かいようと、腰痛じゃ、診るところが違って専門があるのはわかるけど、歯医者さんは、誰でも、虫歯や歯周病の治療をしているのだから、専門というのは大学だけの話でしょ」。そう思われるかもしれません。
 確かに開業している歯医者さんのほとんどは、一通りの治療はやってくれます。しかし、その開業の先生たちの中にも、一定期間、大学に残って専門分野を研究したり、学会に参加して、勉強を続けたりしている人たちがいます。歯科の前を通り過ぎただけでは、違いはわかりませんが、歯医者さんの世界にも、「餅は餅屋」という面があって、深い知識と経験を持っている人ならではの力を発揮して診療に当たっている先生たちがいます。取材で治療の考え方を聞いていても、技術にかけるプライドを感じさせられることもあります。
 専門医や認定医になるには、学会での活動のほか、自分が治療したケースについて報告して、審査を受けなければならない学会もあります。そして専門とする分野によって、治療の考え方に違いが出てくる場合があるようです。
 例えば、「補綴」というのは、入れ歯を始め、クラウンというかぶせ物や、詰め物が専門です。それらを補綴物といいますが、ピタリと口に合わせ、使いやすく入れるのが腕の見せどころです。ですから、「入れ歯が合わない」という不満に対して、応えるのが補綴の専門家の役目です。一方、「接着」の先生たちが得意とするのは、レジンというプラスチック素材の扱いです。金属やセラミックの補綴物をきっちり張り付けるには、歯をある程度削って、平らに接着面の形を整える必要があります。これに対して、レジンはペースト状の素材を歯に直接のせ、接着、密封することができるので、歯をあまり削る必要がありません。接着の専門家は、「削らない虫歯治療」ということを強調する場合があります。
 成人が歯を失う最大の原因は、歯周病です。きっちり歯茎の掃除とかみ合わせの調整をする。進んでいる場合は、歯茎を切開したり、再生を促す素材を入れたりして歯を守る方法もあります。「この歯はもうすぐ抜けるよ」などとあっさり言われたという話をしばしば耳にしますが、できるだけ良い状態で歯を残すよう努めるのが歯周病を専門にする歯科医の本分であるはずです。
 いくつか例を挙げましたが、開業の歯科医は誰でも、補綴治療を行い、レジンを扱い、歯周病などの治療もこなします。なにも専門医や認定医でなければやらないというものではありません。しかし、その中で、努めてその分野についての知見を深めている、得意分野を意識している歯科医が専門医や認定医です。特にそのことを強く打ち出していなければ、患者さんたちも、その先生が専門医や認定医の資格を持っているとは、意識していない人の方が多いかもしれません。
 そこで専門医や認定医の名簿を載せた雑誌を作りたいと、歯科関係者に相談してみたのですが、必ずしもいい顔をされません。
 例えばこんな意見です。「学会の専門医や認定医は、大学にある年数在籍していないと取れないものが多いですよ。だから、開業して自ら研鑽を積んだり、研究グループを作って腕を磨いていたりする人の中には、そんな資格を持っていない人も多いのが現状です。必ずしも保証できませんよ」
 ですが、そこで考えてしまいます。じゃあ、その腕を磨いた、いい先生ってどうやって見つければいいの?それが、わからないから困っているのです。
 「いい歯医者さんは?」と、人の評判を頼りに、近所の歯医者さんを回った経験がある人も少なくないでしょう。その時に、「歯科医にも専門がある」という知識を持って、入れ歯に問題があれば入れ歯の専門家を、歯周病が問題なら歯周病の専門家を調べて、かかってみたほうが、納得のいく提案や治療が受けられる可能性が高くなるのではないだろうか。そう考えました。

専門医紹介記事への大反響

 昨年夏には、入れ歯が合わず、うまく食べられないという患者さんの苦労を伝える「医療ルネサンス」の記事で、「日本補綴歯科学会」の専門医の仕事ぶりを紹介しました。多くの問い合わせが来るのを予想して、記事の連載に合わせて、インターネット上の学会のホームページに専門医名簿を載せていただきました。すると、初日のアクセス数は7200件と、記事掲載前日の170件から40倍にはね上がりました。入れ歯の記事なので、インターネットを使っていない高齢の方で関心を持つ方も多いと考え、記事には、学会事務局の電話番号も載せておきました。すると、「うちの近くの専門医を教えてほしい」という電話が5日間で600本も入ったそうです。
 なんと多くの方が、歯の問題を抱えているのかと改めて驚き、役に立つ情報を届けようという思いが強まり、雑誌を作ろうという大きな動機になりました。
 日本には、6万7000軒もの歯科診療所があります。そのうち、この雑誌に収録したのは、わずか2000軒です。この雑誌に入っていない、優れた先生もたくさんいることでしょう。逆に、特定の分野の専門医や認定医の資格を持っていても、経営上、お金になる、自費のかぶせ物やインプラントを勧めたがる歯科医もいるかもしれません。そうした点には注意が必要ですが、それでも、受付の印象や診療所の雰囲気で判断するよりは、意味のある指標になるはずです。

セカンドオピニオンのすすめ

 がんの治療など重要な病気では、主治医以外の別の専門医の意見を聞く、セカンドオピニオン(第2の意見)が広がっています。自分の病気について理解を深める、あるいは、別の選択肢と出会うために、大変に役に立ちます。歯科にかかるときも、いや、歯科こそ、セカンドオピニオンがとても重要です。
 ちょっと私自身の最近の経験をお話させてください。歯科につての知識が全くなかった10年以上前に左上の奥歯から2番目の歯を抜かれて、一番奥と3番目の歯で支えるブリッジを入れました。ここ2年ほど、ブリッジを支える一番奥の歯の歯茎が時々腫れることがあって、その治療方針について、数人の歯科医に意見を聞いてみました。
 「根はほとんど死んでいるので、根の治療をして、ブリッジをつけ替えましょう」と根の治療の専門家が言えば、接着を専門にする歯科医からは「根は完全に死んでいるわけではないから、歯のかみ合わせを調整して、ちょっと様子を見ては」と提案を受けました。
 「曲がった根の形から見て、根の治療がうまくいくか自信は持てません。それでも、根の治療をしてブリッジを取り替えるのが通常の考え方です。歯周病は大丈夫ですよ」と言ったのは、歯周病の専門医でした。
 一方、「一番奥は根だけじゃなくて、歯周病もあるから、歯を抜いて、インプラントを2本いれるのもいいですよ」という人もいました。
 診断のニュアンスから方針まで、これだけ違います。治療費も、数千円の保険治療から、自費で80万円の見積もりを出してきたところもあります。
 日本の歯科医療費は、極端に安い保険診療と、やたらと高額な自費診療に両極化しています。それだけに、治療法にも費用にも、選択肢が多いのが歯科医療です。しかも、長い目で見たとき、必ずしも高額治療が良いとは、一概に言い切れない面もあるようです。ですから、セカンドオピニオンがとても大切なのです。
 名簿は分野ごとに分かれていますが、ほとんどの歯医者が一般的な歯科治療を行っています。自分の状態を見て、関係しそうな先生に、まず、意見を聞いてみてはいかがですか、というのが本誌の提案です。歯が痛くて仕方がないという緊急事態でなければ、セカンドオピニオンを考えてみていただきたいと思います。自分の歯を傷つける差し歯や、インプラントなど高額な自費の治療を積極的に勧められた話をしばしば耳にします。歯は一度、削ったり、失ったたりすれば、元には戻りません。あわてて治療をする必要がないことも多いと思います。
 本誌が、より納得のいく治療と出会うきっかけになれば、幸いです。

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