補綴構造設計士・歯科技工士川島 哲の世界
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終わりが始まり

歯科技工の海外委託問題訴訟原告団代表 脇本征男

 歯科技工士の私が、まさか裁判など起こすことは考えもしなかったことだが、初めての経験だった。そしてすべて棄却、全面敗訴だった。門前払い同然の判決だ。
 その瞬間、覚悟はしていたものの茫然自失、実に情けなく、悔しかった。報告集会終了後、会食を拒否し、ポスト外交のため夜半の閑散としたビル街を一人急ぎながら、眼の奥から痛みを伴って涌き出る執念、怨念の残骸で、鼻頭がジーンとしびれ、ぼやける視界で歩き続ける自分がいた。
 確固たる組織がありながら、個人で訴訟を起こすことのハードルは、実際にやってきた者でなければ跳び越えることのできない厳しいものがある。
 しかし、「国を相手に訴訟を起こす」との一つの目的で任意に集まった塊である。誰が代表になってもおかしくない、皆優秀な人材だけに、個性的で、何度となく一触即発の危機を乗り越えなければならなかったことは事実だ。それでも一度たりとも苦しいとか、放り投げようとか思ったことはなかった。
 それは、将来を考える時、この訴訟を通して「歯科技工士」がいかに資格者として業界で大切な役目を担って仕事をなしているか、知らしめたいからである。
 まさに今、閉塞的な歯科業界にあって、国民の皆さんに歯科技工士の顔が少しずつではあるが見え始めつつあるのではないか。
 自らの職業に自信を持ち、生きがいを見いだし、将来設計ができ、老い先までを夢見ることのできる職業だったら、誰も好き好んで若い身空で、他に転職、廃業、最悪な縊死など、悲しい結末は選ばないだろう。
 国は「歯科技工士」は確かに資格制度で免許はあるものの、「歯科医師の補助をなしていればいいことで、地位保全などと訴える主体性はない」という。まるで「法」成立以前の昔、誰に歯科の補助をさせても良かった時代に逆行する感がある。
 「国内法だから海外の無資格者に歯科技工行為を委託しても良い」。それも、歯科技工士法の「定義」2条の歯科医師が自ら治療している特定人(患者)の補綴を行うと同等に「歯科医師自らの行為として委託しても良い」ということだ。
 法の定義は、「歯科医師が自ら治療している患者の補綴物作成は、技工とは言わず、治療行為と見なされる」ということである。

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 法律上、少なくても「治療の一環」である重要な「補綴物作成」を、わが国の有資格者である歯科技工士ではなく、海外の無資格者に委託する歯科医師の医療人としての倫理感を疑う。あくまでも、国内の歯科医療現場における経済的なメリットだけを求めた、違法行為であると断せざるを得ない。
 日歯へ協力を申し入れた時、対応した常務理事の先生は、「歯科医師がやっているわけがない。やっているとしたら歯科技工士か業者にだまされているのだ」と断言した。
 現実に、愛知県で開業されており、テレビ東京と讀賣の記事で実名報道された先生は、一体何者なのか。こういうところにも現状の歯科医療業界の恥部がはっきりと浮き彫りにされている。
 幸いなことは、裁判所の判断で「一般に、業務独占の規制に違反する行為が禁止される結果、歯科技工士法上又は条理上、所轄行政庁においてその違反の有無について調査し、その結果に基づいて違反行為を止めるように指導することが求められる」と、一定の国の責任を認知したことである。
 つまり、今までの口頭弁論で国は、歯科技工士には「業務独占はない」との一貫した主張だった。同時に国は、「条理上」という解釈を示したことは一度もなかったことを、裁判所は認知してくれたということだ。
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 しかし結果としては、肝心な海外委託の問題には踏み込まず、残念ながら門前払いの判決となった。海外委託そのものが、合法か、違法かは、上級審の判断いかんに持ち越されることになっただけである。訴えが却下されたからといっても、即、歯科技工の海外委託が「合法」と考えることは早計であり、大きな間違いだ。
 私たちがこの訴えで、自分たちの権利主張のみを声高に叫んでいるような裁判所の捉え方であるが、自らの仕事がなくなるとか、経済的に大きな損失であるからとかではない。
 まさに裁判所が主張する歯科医療を受ける国民の健康を確保するため、一般的公益としての公衆衛生の保持を目的とするものである。このために、制定された歯科技工士法に「17年通達」は違反していないのかを問うているのである。
 上級審では「事実上の利益」にとどまらず、歯科技工士の法的利益の主張と、「当該行政庁の合理的な裁量」とする舞文弄法との闘いになろうかと思われる。
 これまで各方面から、多大なご支援、ご教導、そしてご援助を賜り、身に余る光栄と心からの敬意と感謝を申し上げたい。
 当初の公約通り、10月2日、東京高等裁判所あての控訴手続きを完了した。
 冒頭、訴訟的確から「入り口突破」を図り、今度こそ内容の審理にじっくり戦法を整えて臨まなければならないと決意も新たに覚悟している。

日本歯科新聞 2008年10月7日掲載
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