補綴構造設計士・歯科技工士川島 哲の世界
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スーパーカブとフィットに見出すHondaイズム
技術に裏打ちされた高い実用性

  Hondaイズム
今年で50周年を迎え、全世界で累計6000万台を数えるベストセラーバイク、スーパーカブ。
01年にデビューし累計200万台以上を数え、昨秋スイッチした2代目が国内でトップセールスを続けるフィット。
出自の違いはあるものの、車両に相通じる高い実用性に込められたHondaのモノ創りを探る。

文:河原良雄/写真:永元秀和

スーパーカブに乗った。思えば30年ぶりである。バイクから遠ざかって久しいにもかかわらず、すんなり乗れたのには我ながら驚いた。まるで昨日まで乗っていたかのように違和感なく走れたのだ。
 キーを受け取ったときは、「ちゃんと乗れるかな」とちょっと不安がよぎった。不安がちょっとだったのは、コンパクトで軽いボディーと、50ccという排気量を意識していたからだ。スーパーカブを前にして思ったのは懐かしさだった。まるで、クラス会で初恋の彼女に会ったかのような。そして久しぶりにもかかわらず、まったく変わりなく可愛かった・・・・・みたいな感じだった。そう、見た目は30年前に共にしていたスーパーカブと何ら変わりがなかったのである。
 キーを差し込んでキックを蹴る。間髪を入れずエンジンがブルンと始動する。ハンドルに手を添えると、左にライトとホーン、右にウィンカーとスイッチ類も昔と何ら変わりない。変化といえば正面のメーター手前に増設されたPGM-FIと燃料残量の警告ランプぐらい。これを見て、「インジェクション付きになっているんだ」と再確認した次第だ。
 ギアを1速に入れてスタートする。クラッチレバーのない自動遠心クラッチは、今のクルマに例えれば2ペダル感覚。この構えず扱えるところがスーパーカブのいいところだ。1速は割と低めのギアレシオなので早めに2速にアップする。と、瞬間、強めの変速ショックを感じてしまった。「そうだ、自動遠心クラッチはアクセルを戻してタイミングを計るんだった」と思い出した。そこからは、もう昔の感覚が蘇り、3速にはスムーズにアップできた。ものの1分もしないうちに、スーパーカブを操る感覚は完全に戻ってきていた。気付けば、乗りなれた愛車のようにスーパーカブは身体に馴染んでいたのだ。それは、久しく自転車に触れていなくても、乗ればすぐに感覚を取り戻すのとまったく同じだった。
 降りて、改めてスーパーカブを見る。特徴的な低床バックボーンフレームに泥除けに役立つ大型レッグシールド、フロントがボトムリンク、リアがスイングアームのサスペンション、細めの17インチタイヤなど、基本はすべて昔のままだ。半世紀以上前に設計された工業製品が、今でも十分に実用に供しているなんて他にあるだろうか。これは単に先進性とかで言い表すレベルを超えていて、このままあと半世紀さえも通用しそうな普遍性を備えている。   

Super Cub Super Cub Super Cub

変わっていくもの 変えずにおくもの

 仔細に見ると幾つか変化に気付いた。フロントカバー奥にあるエンジンはヘッドの冷却ファンがカバーされ、エキゾーストの出口にコブのようなものが見える。PGM-FI化とキャタライザー付きである証拠がここにある。想像して欲しい。スーパーカブの単気筒SOHCエンジンのボアは39.0mm、ストロークは41.4mm、に過ぎない。径が4cmもないピストンが甲斐甲斐しく毎分7000回転も回って3.4psを引き出しているのだ。こんな小さなエンジンでも、インジェクションを備え、かつ、しっかりと排ガス浄火を図っているのである。それでいながら、30km/h定地走行燃費では110.0km/gというとてつもない好燃費をマークしている。姉妹誌「オートバイ」で、”満タンでどこまで走るか”という企画をやったところ、東京スタートで岐阜県まで行ってしまったという。ガソリンタンク容量は3.4gしかないのに、である。
 と、ここで素朴な疑問が生じた。スーパーカブはインジェクション付きである。にもかかわらず、キックでエンジンが掛かる。私の頭は「?」となった。関係者に訊けば「バッテリーが完全に放電しても、キックによってエンジンが始動できるのです。インジェクションでありながら、このキックを残すというのは難題でした。セル付きは問題ないのですが・・・・・」とのこと。その後、じっくりキックを確かめると、下まで踏み込む手前でエンジンが掛かっていることが判明した。「スーパーカブ=キックスタート」という、定義化している操作にも開発陣はこだわりを捨てなかったのである。スーパーカブという伝統が、こうした気付きにくい箇所にも息づいていることに感銘させられた。
 さらに、細めのタイヤにも見えない秘密が隠されていた。17インチのタイヤの中にパンクに強いタフアップチューブを採用しているのである。これは二重構造のチューブ内にパンク修理剤のようなファイバーを含んだ糊が注入されていて、、万が一、釘が刺さった際は、パンク防止液で孔を塞ぐシステム。スーパーカブのような実用車は、何が起こっても目的地まで行かなければならない。そんなときに心強いシステムが、タイヤの内部にさり気なく採用されているのである。クルマに例えればランフラットタイヤ、いや自ら修理することを考えれば「それ以上」である。
  
Fit Fit Fit
 スーパーカブに乗って、懐かしさと親しさの中に、改めて実用性の高さを感じ入った後、フィットに対峙した。コンパクトなボディながら、キャビンを目いっぱい大きく取ったスタイリングは、ホンダ伝統のMM(マンマキシム・メカニマム)思想を具現化している。ディテールこそ先代とは違うが、全体のイメージは誰が見てもフィットである。このデザインのキープコンセプトには訳があった。それはセンタータンクレイアウトを踏襲したからである。
 ガソリンタンクはリアに置くものというこれまでの常識を覆し、前席中央、つまり運転席と助手席の間に持ってきたセンタータンクレイアウトは画期的だった。確かにガソリンという重量物をセンターに置けば、前後の重量バランス的にいいのは素人でもわかる。ただ、それを現実のものとしたことが大きい。できてしまえばフツーに思えることでも、そこに辿り着くには並々ならぬ努力があったはずである。事実、フィットのフロアを見れば、「よくぞ、ここにガソリンタンクを設けたものだ」と思ってしまう。が、普段フィットを使う人はガソリンタンクの位置など意識すらしていないだろう。
 センタータンクレイアウトがあるからこそ、多彩なシートアレンジや、コンパクトなボディーからは想像できないほどの大きなラケッジスペースが可能になったのだ。かつて開発者から、「リアタンクで現状のスペースを確保するには、ホイールベースをあと20cm延長しないと無理だったんです」と聞いたことがある。センタータンクレイアウトの秀逸性を物語るエピソードである。
 フィットに乗り込む。先代ユーザーだったら運転席に収まっただけで進化に気付くはずだ。しっかり感を増したシート、フットレストが付いて広くなった足下、テレスコピック機構が追加されたハンドル、死角が減ったAピラーと、安心感が確実にアップしている。走り出せば、CVTにトルコンが付加されてスムーズになった加速、油圧かと思うほどアシストが増えたパワーステアリングの感触、そして何よりパワーアップされたi-VTECエンジンがもたらす余裕を体感できる。それでいて10.15モード走行燃費で24.0km/gを実現しているのだから、ガソリン価格高騰の時代に正にフィットしている。そして、いまフィットに乗って感じるのは、様々なメカニズムが黒子に徹していて、決してでしゃばっていないことだ。だから、すべての操作が構えることなく自然に行える。フィットがすんなりと運転でき、かつ安心感が伝わってくるのはこのためだろう。
 スーパーカブとフィット、バイクとクルマというトランスポーターとしての違いはあるものの、共に高い実用性を備えている。共に、特別なドリルなしで、誰が乗っても即、馴染んで操ることができる。ここには見えない部分でサポートしているさまざまなメカニズムが作用している。そのメカニズムはバイクを、クルマを操ることに長けた技術者のこだわりがあるからこそ生まれたに違いない。だからこそ、スーパーカブはPGM-FIになってもキック始動を継続し、フィットは2代目になってもセンタータンクレイアウトを引き継いだのだろう。今回、スーパーカブとフィットに乗って改めて感じたのは、常に新しさを取り入れながらも、志が高いものは大事に受け継ぐというホンダのモノ創りだった。

Motor Magazine 11 No.640 2008年11月1日発行より
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