補綴構造設計士・歯科技工士川島 哲の世界
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竹島を取り巻く現実

ソウル支局長 宇恵 一郎

日本海に浮かぶ竹島の領有権をめぐる日本と韓国の確執は、ナショナリズムに火がつけば燃え上がるやっかいな問題だ。双方の冷静な議論が必要だが、韓国内では議論の対象にはならない。なぜなら、韓国においては、歴史的事実を冷静に深索する。「論理」の対象ではなく、いわゆる「情」、情緒の問題だからだ。
 東日本大震災直後の3月末にソウルに赴任した。直後に日本の文部科学省による中学校教科書の検定結果が公表され、竹島は「日本の固有の領土」で、「韓国に占拠」されているとの記述が増えていることが報じられた。
 当時、市内で乗ったタクシー運転手との会話は、地震被害への見舞いから始まった。そして、「それにしても、われわれがこれだけ心配しているのに、あの独島(竹島の韓国名)問題での日本の教科書の書きようは、ないよね」と続いた。日本の復興への応援の気持ちが萎えるというのだ。
 8月はじめ、3人の自民党国会議員が、竹島問題深求のため鬱陸島を目指し、金浦空港で追い返された。この時も、テレビの街頭インタビューで、若い女性が「地震復興で応援してるのに」と顔を曇らせた。「恩をあだで返す国」という「情」によるイメージだ。
 政治の場面では、さらに「国士」イメージでの行動と発言が上塗りされる。韓国国会の独島領土守護対策特別委員会は繰り返し同島での委員会開催を主張し、大臣たちは島に上陸し、その決然とした写真が新聞紙面を飾る。
 メディアは、いまにも日本が島を奪いに来るかのような警告を国民に発し続ける。領有権をめぐる歴史的な対立の経緯に踏み込む論評は皆無に近い。日本の領土主張は、「妄言」で片づけられる。
 しかし変化も見える。李明博大統領は一貫して冷静な対応を見せ、8月15日の「光復節」(日本の植民地支配からの解放記念日)演説でも竹島問題にふれなかった。韓国の主要紙も、政治家による竹島問題の政治利用を「独島ポピュリズム」(8月5日「中央日報」論説)と批判し始めている。
 何よりも、年間で日韓両国民合わせて500万人が両国を往来する時代。相手の国を実際に見た上での友好の積み上げは、確固とした両国関係の土台となっている。韓国政府が戦後の混乱期、歴史的に日本の領土である竹島を一方的に自国の領土と宣言し、警備隊を常駐させ、実効支配の既成事実を積んできた。それが竹島の現実のすべてだ。
 竹島問題を「歴史認識問題」と韓国側が呼ぶ非論理的な「情」から解き放ち、前向きに論争することが両国の未来にとって重要だ。とわかっていても、実効支配する側にその声を届けるのが困難なことも、これまた現実なのだ。

2011年8月21日 讀賣新聞 掲載
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