歯科技工士よ、匠の志を継げ

(元)奈良県歯科技工士会 会長
林 昭宏

先ごろ完成した東京スカイツリーは、人々を驚かせ魅了した。マスメデイアも世界一高い電波塔を建てたプロの仕事師振りを、日本のモノづくりの底力と評し、最新技術の結晶のような仕上げだと賞賛した。 社会が騒然・暗然の中、ともし火の様な存在だと、「日本の明日をツリーと共に歩みたい」と、結んでいる。
 奈良時代、東大寺において100m級の七重塔が創建されたと記録に残っている。建造に関わったのは、“匠”とよばれる宮大工である。当時も、伝統的な技法と知恵を生かし、世界一高い塔を目指したのではないだろうか、1200年以上前の話である。
 “匠”の技は、それぞれの時代や権力に翻弄されながらも、常に最高の結果を求められゆえに、技能は研ぎ澄まされ磨かれていった。
 時は流れ江戸時代の頃には、それらは庶民文化の中に溶け込み、成熟期に達したと思われる。1850年代、アメリカのペリー提督は、江戸の町を見聞した折、清潔で勤勉、そして器用な庶民の生活を目の当たりにし、「日本が欧米の技術力を獲得したならば、強大な国になるだろう」と予言した。
 その後の日本は産業革命の申し子の如く、世界の産業立国へと成長していったのである。
 匠の持つ秘めた力は、日本人のDNAの中に当然のように刻まれているのではないだろうかと考えるときがある。 宮大工が寺院建築に臨むとき、木の持つ力を生かして建物を組み上げる。そこに神髄があるという。千年の風雨に耐える寺社を建てる背景には、木を育む自然への深い理解と “畏敬の念”が、そこにはある。
 現代でも、鉄腕アトムやドラえもんが人間よりも高い能力を持ち、社会に隔たりなく存在することに誰も疑念を持たないだろう。これらは日本人特有の気質らしい。 日本のロボット開発にかける底力を見れば、一目瞭然である。
 私は歯科技工士も“匠”の志を受け継ぐべき職業だと考える。
 医療の領域で、人工臓器をつくり、生態に調和・機能させるのである。その作業はまさに崇高な“匠”の技ではないか。匠とは研ぎ澄まされた技能と精神を持ち、それらが卓越した者に与えられる称号とするならば、皆努力すればよいのではないか。
 今、世界経済は混沌としている。日本も例外ではない。世の中どこにも安泰な職業などない。技工業界も現状を維持、発展を促すしか選択の道はないだろう。
歯科技工士は、職業は違えども匠の志を継ぎ、患者本位の倫理を “心柱” として貫けば千年後も、脈々と続く歯科技工の技が存在しているかも知れない。少なくとも私はそう願う!
 最後に、私の思いついた創作文字を紹介したい。
 今回紹介した匠は、ハコ構えに斧を組み合わせて作られた漢字であり一文字で職業とその精神を表す力を持っている。そこで私は匠と技を組み合わせて(  )を考えた。これを匠の志を持つ「歯科技工士」と、読んで頂きたいと思っている。この創作文字が継承者へのともし火と、なれば幸いである。

 以上が、林昭宏氏の日本の歯科技工界への熱いメッセージです。私どもPSD協会の会員は、今後この与えられたメッセージを重く受け止めて、その継承者として生きて行きましょう。

理事長 川島 哲